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東京地方裁判所 平成3年(特わ)1267号 判決

本籍

横浜市神奈川区三ツ沢下町九〇番地

住居

同市中区山下町一〇〇番地の三 リレント山下町七〇一号室

元会社役員

水上迪雄

昭和一六年八月一四日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人、弁護人藤井光春各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金一〇〇〇万円に処する。

未決勾留日数中五〇日を右懲役刑に算入する

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都渋谷区宇田川町三四番地五号(昭和六三年一月二五日以前は同都同区円山町五番四号、同六一年一月一五日以前は同都同区道玄坂一丁目二〇番一号)に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金一億円(昭和六二年二月一八日以前は資本金四〇〇〇万円、同六〇年一〇月八日以前は資本金一〇〇〇万円)の株式会社である株式会社エムザコーポレーション(平成二年九月一日以前の商号は水上土地建物株式会社、昭和六一年一月一五日以前の商号は殖大建物株式会社)の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空の支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和六〇年九月一日から同六一年八月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が四億〇七三六万一八八六円、課税土地譲渡利益金額が八億四九三五万円(別紙一の1修正損益計算書のとおり)であったのにかかわらず、同六一年一〇月三〇日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億九〇九九万七七〇〇円、課税土地譲渡利益金額が六億二六〇六万六〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二億〇六五七万七八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三億四四九二万〇二〇〇円と右申告税額との差額一億三八三四万二四〇〇円(別紙二の1脱税額計算書のとおり)を免れ

第二  昭和六一年九月一日から同六二年八月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が七億八三二〇万八八六六円、課税土地譲渡利益金額が三四億五〇六九万一〇〇〇円(別紙一の2修正損益計算書のとおり)であったのにかかわらず、同六二年一〇月三一日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億七三三〇万一五五九円、課税土地譲渡利益金額が二五億九二二三万円であり、これに対する法人税額が五億八二八九万二三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一〇億一〇七四万五四〇〇円と右申告税額との差額四億二七八五万三一〇〇円(別紙二の2脱税額計算書のとおり)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(七通。検乙一ないし四、六、七、一一)

一  森川慶利(三通。うち検甲三六、三七は不同意部分を除く)、桶田厚志(四通。検甲三九ないし四一、四三)、豊野彌八郎(二通。うち検甲四五は不同意部分を除く)、中野義久、笹山正義こと鈴木正義、久松孝子(四通)、三邊長昭(不同意部分を除く)、坂井章、小山信一、海東時男の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の土地建物売上高調査書(検甲一)

一  検察事務官作成の捜査報告書(受取手数料の金額について)(検甲三)

一  大蔵事務官作成の支払仲介料調査書(検甲八)

一  大蔵事務官作成の交際費調査書(検甲一四)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈交際費の金額について〉(検甲一五)

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書(検甲一八)

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書(検甲二一)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈雑収入の金額について〉(検甲二四)

一  大蔵事務官作成の交際費損金不算入調査書(検甲二九)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈交際費損金不算入の金額について〉(検甲三〇)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈減価償却費の金額について〉(検甲三二)

一  大蔵事務官作成の土地の譲渡等に係る譲渡利益金額調査書(検甲三四)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈土地の譲渡等に係る譲渡利益金額〉(検甲三五)

一  検察事務官作成の報告書(検甲七四)

一  登記官作成の登記簿謄本(検甲七一)

一  登記官作成の閉鎖登記簿謄本(検甲七二)

判示第一の事実につき

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通。検乙八、一三)

一  淺野勝(不同意部分を除く)、鈴木實、星野谷要二、渡部明義、若林隆男の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の土地建物仕入高調査書(検甲四)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈土地建物仕入高の金額について〉(検甲五)

一  大蔵事務官作成の期末棚卸高調査書(検甲九)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈期末棚卸高の金額について〉(検甲一〇)

一  大蔵事務官作成の給与手当調査書(検甲一一)

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書(検甲一六)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈支払手数料の金額について〉(検甲一七)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈雑費の金額について〉(検甲二〇)

一  大蔵事務官作成の償還益調査書(検甲二七)

一  大蔵事務官作成の役員賞与損金不算入調査書(検甲三一)

一  押収してある法人税確定申告書(六一年八月期)一袋(平成三年押第七五三号の1)

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通。検乙五、一〇)

一  森脇道雄、新井喜雄(二通)、多賀惠美子、渡部雅美の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の受取手数料調査書(検甲二)

一  大蔵事務官作成の土地建物売上原価調査書(検甲六)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈土地建物売上原価の金額について〉(検甲七)

一  大蔵事務官作成の物件別販売管理費調査書(検甲一二)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈物件別販売管理費の金額について〉(検甲一三)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈租税公課の金額について〉(検甲一九)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈受取利息の金額について〉(検甲二二)

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書(検甲二三)

一  大蔵事務官作成の支払利息割引料調査書(検甲二五)

一  大蔵事務官作成の債券売却益調査書(検甲二六)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈事業税認定損の金額について〉(検甲二八)

一  検察事務官作成の捜査報告書〈福利厚生費の金額について〉(検甲三三)

一  検察事務官作成の捜査捜査報告書(検甲七三)

一  押収してある法人税確定申告書(六二年八月期)一袋(前同押号の2)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を併科するとともに、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、右加重した刑期及び合算した罰金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金一〇〇〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中五〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは同法一八条により、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、不動産取引により得た多額の所得を秘匿するなどして、二事業年度で合計約五億六六〇〇万円もの法人税を脱税した事案である。右の脱税額は、近時の高額化したほ税事犯の中でも多額な範疇に属するうえ、ほ脱の手段も売上除外、売上の繰り延べ、仲介手数料等の架空・水増計上などを計画的に行っているのであって、手口も悪質である。なお、南池袋二丁目の二筆の取引は、買受資金調達先の三井不動産ファイナンスから融資限度枠を理由に別会社への融資の形をとることを求められたことなどもあって、エイジアエンタープライズ株式会社を介在させたものであるが、被告人によって設立した右会社は、その設立当初の目的はともかく、実体のないダミーとしての機能しか持たされなかったもので、右の取引を特別有利に斟酌し得るものではない。また昭和六二年八月期の申告前に仲介料架空計上に関する新聞報道を見て、急遽架空計上していた約五億二〇〇〇万円のうち、いわゆるB勘手数料として支払ずみの右架空計上額の約二割を経費とし、残りは仮払金として処理するなど一応の是正はしたものの、その余については正すことなく、所得を秘匿して申告し、結局同年分につき約四億二七〇〇万円を脱税したものであって、右によれば犯情も悪く、受けるべき非難は大きいといわざるを得ない。

他方、被告人は査察の当初から事実を認め、当公判廷においても反省の情を披瀝していること、起訴以前に修正申告を行い、ほ脱にかかる本税、延滞税、加算税のほか、地方税も完納していること、株式会社エムザコーポレーションは平成三年一月八日に破産宣告を受け、破産手続中であること、ほ脱率は通算四一・七パーセントで近時のほ脱事犯の中では必ずしも高率とはいえないこと、前科前歴もなく、犯罪的性格が固着している訳ではないこと、妻のほか、一九歳の長女、一五歳の長男からなる家庭の主柱であることなど酌むべき事情も存する。

右の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、その刑の選択をしたうえ実刑に処するのもやむを得ないものとして、その刑の量定をした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・懲役三年及び罰金二〇〇〇万円)

(裁判官 伊藤正高)

別紙 一の1 修正損益計算書

〈省略〉

別紙 一の2 修正損益計算書

〈省略〉

別紙 二の1

脱税額計算書

〈省略〉

別紙 二の2

脱税額計算書

〈省略〉

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